ASIC設計技術
スマホから車載向けまで。多様なニーズに応えるASIC設計がひらく未来への可能性
ASIC(Application Specific IC / 特定用途向け集積回路)は、コスト削減と性能最適化を目的に、特定の用途や製品に合わせて設計されます。アルプスアルパインは、長年にわたり各種センサーを内製してきた経験を活かし、高品質なASICを提供しています。スマートフォンなどの民生品から自動車の高機能化まで、幅広い分野でのASIC設計に取り組んでいます。
ASICとは?

ASICはマイコンなど汎用的に使えるICと異なり、特定のアプリケーションに特化したICのことです。汎用的なICは幅広いアプリケーションで使えるのが強みですが、その分用途によっては不要な機能も含んでいます。一方、ASICは特定の用途に合わせ、必要な機能のみをIC化した製品なので、無駄がなくコスト面で競争力を持つことができます。また性能面についても、例えば、電源電圧の範囲や使用温度の範囲などを用途に合わせて最適化できるというメリットがあります。
約20年以上前から有している、アルプスアルパインのASIC設計技術

アルプスアルパインは、約20年にわたり社内開発のモジュール向けにASIC設計を行ってきました。当社では、センサーデバイスとASICを一体化し、単一パッケージで提供することができます。2006年に発売した湿度/気圧センサーを皮切りに、地磁気センサー、静電センサーなど20種類以上のセンサーを開発・提供しています。
アルプスアルパインのASIC開発は工場を持たないファブレスで行っていますが、システム設計から品質の作りこみ、テスト工程、量産後の不具合解析までを一貫して行うフルターンキーサービスにより、スピード感のある開発を実現しています。
製造面においては、世界有数の半導体製造ファウンダリと半導体パッケージングを担うOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test / 半導体後工程事業者)の双方と取引関係を築いています。また、ASIC設計において、業界をリードするEDA(Electronic Design Automation / 電子設計自動化)ツールを駆使しています。設計プロセスの効率化と品質向上を目指しています。
30億以上の出荷実績のあるASIC設計
アルプスアルパインのASICは、2023年までに累計ウェハー20万枚、総チップ数30億個という 出荷実績を達成しました。当社の強みの一つはGMR(Giant Magneto Resistive effect / 巨大磁気抵抗効果)素子技術にあり、長年培ってきた専門知識を活かし、独自性のある製品を開発・提供しています。
スマートフォンに使われる地磁気センサーでは25億個を超える実績がある他、湿度/気圧センサーや電流センサーなども提供しています。また、静電センサーの開発にも注力しており、パソコンのタッチパッドで多数利用されています。
さらに、アルプスアルパインでは電流センサー、静電センサーにおいて車載向けの製品開発実績もあります。車載用ICの信頼性試験規格である「AEC-Q100」の中でも最も温度条件が厳しいGlade 0や、機能安全規格である「ISO26262」に準拠した製品の開発などにより、自動車メーカーの厳しい要求にも対応しています。
当社製品 | 用途 | 種類 |
---|---|---|
湿度/気圧センサー | 家電、モバイル | ミックスドシグナル |
地磁気センサー | スマホ | ミックスドシグナル |
電流センサー | 車載 | アナログ |
磁気センサー・スイッチ・エンコーダー | PC、車載 | アナログ |
静電センサー | PC、車載 | ミックスドシグナル、SoC |
モーター電流リップル信号検出 | 車載 | アナログ |
スピード感を持った、開発から量産までの全体フロー
アルプスアルパインのフルターンキーサービスでは、開発を以下の9つのステップで行い、顧客の要望に合わせた柔軟かつスピード感のある開発を実現しています。
- 1ご要求仕様の確認
-
- お客様のご要求内容をお聞かせいただきます
- 2ASIC仕様の検討
-
- システム検討により実現性・リスクを確認し、ASIC仕様を作成します
- FABプロセス・パッケージを調査し、開発期間・開発費・量産単価を見積ります
- 3開発企画のご提案、kick-off
-
- 検討した開発企画(仕様・スケジュール・開発費・量産単価)をご提案いたします
- 企画をご承認いただきましたら開発をスタートいたします
- 4ASIC設計
-
- 回路設計、レイアウト設計、シミュレーション検証を行い、設計結果をレビューいたします
- 5ES製造・評価
-
- ES品(Engineering Sample)の試作・評価を行い、結果をレビューいたします
- 6ASIC設計
-
- ES品の評価合格の認定をいただきましたら量産用マスクを作製します
- ASICの量産テストプログラムを開発します
- 7CS製造、信頼性評価
-
- 量産用マスクを使用しCS品(Commercial Sample)の製造とそのテスト・信頼性試験を行います
- 8開発完了
-
- CS品の評価合格の認定をいただきましたら開発完了とします
- 9ASIC量産
-
- 量産テスト工程をテスト委託先に立ち上げます
- 各製造委託先をコントロール(製造指示・生産状況監視・品質管理)しASICを納品いたします
アルプスアルパインには、ユーザーの要求に対する柔軟性と対応力があります。今までの開発経験を基盤として、要求の変更に迅速に対応できる体制を有しています。ユーザーのニーズを把握し、現実的かつ最適な仕様を提案することができ、様々な背景を持つユーザーのASIC開発をサポートしています。
また、コンカレントエンジニアリング(複数のプロセスを同時並行で進める設計手法)を採用し、仕様が確定する前からASIC設計を並行して進めることで、開発期間の短縮も図っています。さらに、民生品分野における厳しい時間的制約に対しては、CS品(Commercial Sample / 量産品と同等のサンプル)の製造プロセスを柔軟に調整することで、短期開発プロジェクトにも対応できています。
アルプスアルパインのASIC設計実績(ブロック図)のご紹介
アルプスアルパインでは、GMR素子を使った地磁気や電流センサーを始め、20種類以上のセンサーに対しASICを設計しています。中でも特に出荷数の多いASICについて紹介します。
湿度、気圧、地磁気センサー信号コンディショニングIC(ミックスドシグナル)

湿度、気圧、地磁気センサーは、GMR素子を活用したアルプスアルパインの主力製品です。地磁気センサーは多くの生産実績があるほか、湿度/気圧センサーは家電やモバイルなど、民生用で広く使われています。湿度、気圧、地磁気センサー用のASICは、外部センサー出力のアナログ信号をアンプで増幅、補正し、デジタル信号に変換し出力する機能を持っています。
- 主な機能
-
- センサー素子の駆動
- センサー出力信号の増幅
- アナログ/デジタル変換
- センサー製品として必要な各種計算や補正処理
- メモリや各種インターフェースに対応した出力機能(I2C/SPI)
電流センサー(磁気比例式/平衡式)信号コンディショニングIC(アナログ)


電流センサーは、車載用インバーターやバッテリマネジメントシステムで主に利用されている製品です。磁気比例式と磁気平衡式、2つの方式で動く電流センサーを扱っており、それぞれに対応するASICを開発しています。電流センサー用のASICは、センサーアナログ出力を増幅・補正し、アナログ信号のまま出力する機能を持っています。
- 主な機能
-
- センサー素子の駆動
- センサー出力信号の増幅
- センサーが持つ温度特性の補正
- 出力クランプ機能、フェールセーフ機能(機能安全対応)
- AEC-Q100 grade0に対応
DCモーター電流・電圧検出、電流リップル信号検出IC(アナログ)

DCモーター電流・電圧検出、電流リップル信号検出ICは、自動車のモーターにおける電圧・電流リップル信号を検出する機能を持ったASICです。モーターの電圧・電流を検知することで、モーターの動作を検知するために使われます。センサーレスのシンプルなシステム構成で動作し、-10~+60Vという高い入力レンジを実現しているのが特徴です。
- 主な機能
-
- モーター端子間電圧の出力
- リップル電流をパルス化して出力
- UART、1線シリアル通信のインターフェースに対応
- AEC-Q100 grade1に対応
静電センサーIC(ミックスドシグナルAFE/SoC)


静電センサーは、パソコンのタッチパッドなどに使われている、湿度/気圧/地磁気センサーと並ぶアルプスアルパインの主力製品です。静電センサー用のASICは、タッチパネルやタッチパッドのセンサー情報を取得し、多チャンネルで高速動作を実現する「AFE-IC」と、マイコンが内蔵されワンチップで静電センサーとして動作する「SoC-IC」の2種類を開発しています。
- 主な機能
-
- アナログ/デジタル変換
- SPI、UARTのインターフェースに対応
- AEC-Q100 grade2に対応(SoC-IC)
テスト・故障解析環境を自社で持つことにより、短期間での不具合解析が可能に
開発した製品の品質を保ち続けるには、自社内で品質保証体制を整えなければなりません。アルプスアルパインでは、テスト環境と故障解析環境を自社内に保有し、専任のエンジニアを配置することで、品質保証体制を築いています。
テスト環境

T2000

V93000

AP2000e

AP3000e

アルプスアルパインでは、テスト環境として自社工場内にテスト用設備を多数保有しています。
半導体テスト・システム(T7722/T2000/V93000【株式会社アドバンテスト】)
ASICやSoCが正常に動いているかなどを検査できる検査装置です。アドバンテスト製の最先端テストソリューションである「V93000」や、モジュールを用途に合わせて柔軟に組み替えられる「T2000」などを保有しています。
プローバー(UF2000/UF2000(低温対応) / AP3000e【株式会社東京精密】)
ウェハー上に形成したパターンに電流を流し、電気特性を評価することでチップの品質チェックを行う検査装置です。200mmウェハーに対応している東京精密製の「UF2000/UF2000(低温対応)」と、300mmウェハー対応の「AP3000e」を保有しています。
テスト・ハンドラー(M4171【株式会社アドバンテスト】)
半導体開発において、自動で温度テストや発熱検査を行える検査装置です。研究開発用に省スペースで様々な温度テストが行える、アドバンテスト製の「M4171」を保有しています。

故障解析(FA)環境
アルプスアルパインは、迅速な故障原因の解析と対応策の立案を実現するため、解析装置を自社保有し、専門知識を持つエンジニアを配置しています。ICの解析プロセスは多岐にわたり、目視検査、電気検査、非破壊検査から、パッケージ開封後の故障箇所検査、断面診断に至るまで、あらゆる解析手法に対応可能な設備を整えています。
長年の経験を積んだ故障解析エンジニアが在籍しているため、製造過程で発生するパーティクル(微粒子状の異物)起因の不良や、製造工程のミスによる不具合を迅速に特定し、的確な対策を講じることが可能です。さらに、設計に携わったエンジニアも解析プロセスに直接参加することで、問題の原因を理解し、最短経路での解決策を講じています。
豊富な実績のある技術をもとに、お客様の幅広いご要求を具現化します
アルプスアルパインが開発したASICは、長年にわたり各種センサー素子と共に進化を続け、高い性能と信頼性を誇る製品です。当初は社内のモジュール向けに開発されましたが、国際標準や業界規格に適合する高品質なICとして、幅広い用途で活用されています。
フルターンキーサービスによるカスタム品開発にも対応しており、ディスクリート部品(個別部品)で構成された回路のIC化など、お客様の多様なニーズに柔軟に応えることが可能です。スマートフォンやモバイルデバイス、車載機器、ゲーム機器など、高度な性能と高い信頼性が求められる分野での製品開発をお考えの方は、当社までご相談ください。
