機器分析技術
ものの本質を捉え、製品開発と品質向上を支えるアルプスアルパインの機器分析技術
アルプスアルパインは「コンポーネント」「センサー・コミュニケーション」「モビリティ」の3事業を展開し、取り扱う製品は15,000種に及びます。スマートフォンや家電、自動車など幅広い最終製品に組み込まれるこれらの製品の品質を保証するため、機器分析を十分に活用し、信頼性の維持と向上に努めています。
幅広く活用できる機器分析
機器分析とは、高度な分析装置を活用して目では見えないものを視覚化し、物質の成分、構造、物性を科学的に解明する技術です。X線CT顕微鏡、走査電子顕微鏡(SEM)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、ガスクロマトグラフ(GC)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)などを用いて、物質の状態や特性を客観的なデータとして取得・解析できます。このようなデータを用いることで、製品に起こった問題の根本原因を明らかにし、製品開発段階での材料選定や出来栄え評価など、機器分析は幅広く活用できる技術です。
アルプスアルパインの機器分析部門は製品の開発・生産全般における品質向上に貢献しており、開発、製造、品質保証など、製品に関わるあらゆる部門の課題解決を横断的に支える重要な基盤技術となっています。
アルプスアルパインの機器分析技術は分析機器のラインナップはもちろんのこと、経験豊富な分析技術者によって支えられています。

総合的な分析アプローチ
多様な製品に対応するため、複数の分析装置を組み合わせた総合的なアプローチを実施しています。観察・元素分析、構造解析、物性評価、環境規制物質分析など、目的によって最適な装置が異なるため、1台の装置だけでは完結しない分析ケースも少なくありません。その場合には複数装置を組み合わせてそれぞれの結果をつなぎ合わせて、総合的な解釈をおこなうことで分析の精度と信頼性を担保しています。
また、分析には適切な前処理が必要です。例えば断面作製技術や微量成分の抽出・濃縮など、分析機器にかける前の工程に高度なノウハウが蓄積されています。この前処理技術も、分析精度を大きく左右する重要な要素となっています。
豊富な分析経験と分析技術者
分析技術は分析装置だけでは成立せず、データを正確に解釈して結論を導き出す分析技術者の専門性と経験が必要です。分析データから得られる複雑な波形や数値を正確に解釈し、課題解決に繋がる結論を導き出すのが分析技術者の意義です。年間2000件を超える分析実績があり、分析部門設立から40年以上の経験と知識の蓄積によって培われた分析技術者固有のスキルによって支えられています。
特に重視しているのは、過去の課題から得た経験を活かした適切な分析提案力と、複雑化する製品に合わせた分析技術のブラッシュアップです。装置操作、データ取得、結果解釈を総合的に高めていくことで、製品開発と品質向上に貢献しています。

高品質かつスピーディーな対応
機器分析は、通常5〜10日程度のリードタイムを基準としつつ、緊急度の高い分析については、試料到着後すぐに分析できる体制を整え、可能な限り短時間でのデータ提供にも努めています。
限られたリソースの中で効率的に対応するためには、分析の優先順位付けが重要です。要求される大量のデータのうち、「優先度の高いデータ」を設計部門、製造部門、品質保証部門とすり合わせ、効率的な分析プロセスを構築することで、回答までの時間を可能な限り短縮しています。
また、複数の分析装置を組み合わせる必要がある場合は、横断的な知識を持つ分析技術者の経験や分析技術者どうしのコミュニケーションが役立ち、スピードと品質を両立させた分析結果を提供しています。
さらに既存の分析手法では対応できない分析や、従来の考え方では分析の方向性を決めきれない課題に対し、アルプスアルパインの分析部門では独自の分析手法を確立するテーマ型アプローチを展開しています。
アルプスアルパインの技術を支える分析装置(一例)
アルプスアルパインでは、多種多様な分析装置を保有しており、分析依頼者の細やかなニーズに対応しています。
前処理技術
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断面研磨装置
研磨紙、研磨剤を用いて断面加工を行い、内部状態や金属接合状態等の断面分析前処理が可能。
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イオンミリング装置
Arイオンビームを用いた断面加工を行い、断面研磨装置では困難な多層膜や軟質材料の断面分析前処理が可能。
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デュアルビームFIB装置(Dualbeam-FIB)
電子線とイオンビームを組み合わせ、観察しながら精密加工が可能な複合分析装置。
形態観察・元素分析
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透過型電子顕微鏡(TEM)
加速された電子線を試料に透過させ、原子レベルの内部構造や結晶構造を観察可能。
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オージェ電子分光装置(AES)
電子線照射により放出されるオージェ電子を検出し、表面数ナノメートルの元素分析が可能。
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X線CT顕微鏡
X線を360度回転照射し、物体内部の3次元構造を非破壊で断層画像化する。
構造解析
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ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析装置(GC-TOFMS)
ガスクロマトグラフで分離した成分を飛行時間型質量分析計を用いて高分解能で検出し、複雑混合物の網羅的解析が可能。
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飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)
一次イオンビームを照射することで試料から放出される二次イオンの質量分析により、微量成分の分布を高感度で検出可能。
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フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)
赤外光の吸収スペクトルから分子の振動状態を測定し、有機・無機物質の構造や官能基を高精度で同定可能。
物性評価
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紫外可視近赤外分光光度計(UV-Vis-NIR)
物質に紫外から可視、近赤外領域の光を照射し、その光学特性(透過率・吸光度・反射率)を測定する。
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示差走査熱量計(DSC)
一定の熱を加えながら試料と基準物質の温度差(熱流束型)を測定し、吸熱反応や発熱反応を測定する。
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ナノインデンター
ナノスケールの押し込み試験により、微小領域の硬度や弾性率を定量的に評価できる。
専門的かつ横断的な分析体制
アルプスアルパインの機器分析は、仙台開発センター(古川)、長岡開発センター、平工場の3拠点体制で運営されています。各拠点は物理的には離れていますが、「機器分析技術室」という1つの部署として運営されており、密接な連携のもと分析を行っています。

各拠点には特色があり、仙台開発センター(古川)は設計部隊が多様な製品を開発するため、総合的な分析能力を備えています。一方、長岡開発センターは数ナノメートル領域の分析を得意とし、センサー関連製品の精密分析を担当しています。また、平工場は製造現場に近い位置づけで、生産課題に即時対応する体制を整えています。
このように各拠点の強みを活かして、製品特性や開発ニーズに応じた専門分析を実施し、1つの部門として効率的な分析対応を行っています。
分析技術活用による製品開発と品質向上への貢献
2023年に仙台開発センター(古川)に宮城地区の分析部門が集約し分析室を一から設計しました。

私たちは「分析技術はアルプスアルパインの基盤技術」と位置づけており、社内外に認知してもらうため、技術力と活用事例を直接説明する取り組みを行っています。社外のお客様に対しては品質保証体制や研究開発段階での分析活用を紹介することで、「安心して任せられる」と思っていただけるよう信頼構築に努めています。また、社内の各部門に対してはこれまでに機器分析を活用してこなかった人が具体的な事例を知ることで、さらなる分析技術の活用推進につなげています。今後も分析技術の価値と可能性を広く伝えることで、アルプスアルパインの製品開発と品質向上に貢献し続けます。